ちょっとね、
昨日は友達宛ての銀行振込みが終わったあと、思い立ち旭川の河原に行くことにした。
路面電車を使おうか、いったん家に帰って自転車を取ってこようかと悩んだが(うっかり歯磨きをするのを忘れて出てきたのが気になっていた)、そのままこのあいだセールで買った歩くたびカツンカツンとヒールが音を立てるのが魅力的な黒のパンプスを履いて歩いていくことに決めた。
幸いにもmp3プレイヤーをポケットにつっこんでいたので耳にかかる髪の毛をよけながらイヤホンを耳の穴にはめ込み、音量は操作せず音楽を聴きながら歩いた。最初にお決まりのピロウズのマイフットが流れた。イヤホンをはめるより先に再生ボタンを押してしまったために気に入りのベースラインを聞き損ねた。
耳に直接かかる部分が赤い透明のプラスチックでできていて、その部分に六角形の模様があしらわれている伊達眼鏡は世界を曖昧に映す。友達に会ったときにこの模様が気持ち悪いでしょと説明したら、友達はこの六角形を見て「でも蜂の巣みたい」と言っていたのを思い出した。そういわれると蜂の巣を連想させた。
昨晩勢いづいてはさみを入れた前髪が気になって何度もそこに手が行く。 わたしの髪は細っこい上に以前のアルバイト先の店長曰く「こしがない」ので(この表現は自分としてもとても合点がいった)とても風のいいようにされる。風に髪を遊ばれるのは好きなのだが、そのあとの片づけまでしたりなど風はしないのでそそくさとわたしの手が簡易な櫛の代わりを果たす。
だんだんヒールのパンプスを履いてる足が音を上げてきた。何を言うのアナタ。まだ路面電車一駅分しか歩いてないわよ、と叱咤激励した。足は生返事をして働いてみせる。
路面電車が通ってるこの桃太郎通りに面している店は思い入れがある店が点々と所在している。それに該当する店の脇を通るたびにそれらしい思い出を頭が引っ張り出す。そしてわたしはその思い出を受け取りちらりと覗き見る。ちらりと覗き見て短いため息をついたあとにまた突っ返す。突っ返したわたしを見ながらもったいぶって思い出をまた頭は仕舞う。仕舞い終わったあともわたしの様子をうかがってる。
目的地に着くまでその行動を5回くらい繰り返した。まったく飽きなかったが、ほんの少しアンタも好きねぇと思った。それらしいショッキングピンクのライトに照らされ淫靡な雰囲気を漂わせながらみだらに振舞う加藤茶ではない。
歩いていると、前から歩く人とぶつかりそうになることがわたしはよくある。それは方向を変えるのを直前まで相手任せにしてためらってしまうからだ。早々に方向を変えられることが間々あるが、恐らく相手にぶつかる気があるのではないかと思わせるほど自分の進路を譲らない。という姿勢を保ちながら、ああ逸れようか逸れたほうがいいよね逸れてくれないかしらああぶつかるーという思案も一応は巡らせているのだが、巡らせているに終始して行動に伴わないようだ。こんな具合で大体ぶつかりそうになるので、 そういう場合は一旦停止をする。気が合うひととは停止したあともふたりそろってまたぶつかる方向に身をねじったりすることもあるのでその場合はプライスレスの含み笑いもついてくる。
旭川沿いに着いた。川と河原の部分は増水した場合に備えてか階段またはスロープを使って降りるようになっている。その部分の傾斜した地形には草が生い茂っているので整備されたのがここ近年だからなのかスロープはそうでもないのだが階段の部分は草に覆われていると言っても過言ではない。スロープ近くには近所の男子小学生と思われる数名がわたしの嫌う自分が世界を回しているという無邪気な笑い声をあげながらお互いを小突き合っている。迷わず遠く離れた階段を使うことを決定する。階段の部分を発見して、少し足が止まった。思ったより傾斜が激しかったのだ。しかもスチールの手すりの部分は持って揺らすとがくがくとゆれるではないか。なんと頼りない・・・。しかし目的地の河原に足を踏み入れるためわたしは意を決して一歩ずつがくがく揺れるが存外に頼りになる手すりを 両手でつかみながら草を分け入って階段を下った。平地と呼ばれる大きな石が敷き詰められている所に足を下ろしてほっと胸をなでおろす。そこまで平面に加工されていない石をヒールで蹴って、腰を下ろせるようにむき出しになってる大きな石か四角い岩かに目をつけて腰を下ろした。眼前には川が流れている。その向こうは後楽園だ。周りが森に囲まれているのであまりそんな気配はない。幾分離れたところで小学生がまだ声をあげて笑っている。出来ればこちらには近づいて欲しくないと思いながら視線をはずす。
階段を下りている途中になんと目的地に着く前にプレイヤーが音を出さなくなってしまった。充電をしていなかったのが原因だ。なんてことだ。他に娯楽と呼べるものを持ってこなかったのに。そう思いながら投げやりに側面の電源のボタンを長押ししたら、出し抜けに復活した。なんだおどかしやがって、と思いながら再生ボタンを押した。また最初からピロウズが流れた。
川のほうから魚が飛び跳ねている音が聞こえる。何回も聞こえる。何の魚だろう。わからない。
音楽をイヤホンから垂れ流しながらじいっと川を見つめてみる。見つめるのをやめて呆けてみる。ああ、そうだ眠かったんだと思い出す。でも折角ここまで来たんだからもう少しゆっくりしよう。
パンプスのストラップをはずして足を靴から解放してやる。
ふう。
少 し気が重くなることがあった。それについて考えたくなくなって外に出ようと思った。柔軟じゃないひとは好きになれないなと思った。あと冷静に言葉を選んで話ができないひとも。自分の言語が通じない相手とは会話をしたくないと思う。もうずいぶん前からお互い気性や考え方が合わないと思っていただろうから今更な問題だ。発端は自分であるしそれに相手が噛み付いたというだけだ。自業自得とも取れるだろう。
外で友人の声が聞きたいと思う。部屋じゃない外で。着いてから携帯電話を見たらメールが1件来ていた。昼に送っていたメールの返信だった。
少しメールを交換して、自分の意向を伝えたら19時以降であれば電話できるという旨だった。今は16時半。2時間半ここで待つか。そうしようか。
また別の人に、今度は写真を添付してここにいるとメールを送信してみる。返信はすぐ来ないだろう。
だいぶ何もせずにそこで腰を下ろしていた。だんだんあたりが暗くなって、遊んでいた小学生はいなくなっていた。外灯も明かりをともしている。なんだか気分がよくなって流れている音楽に合わせて小さな声で歌った。
やあ、そろそろ帰ろうか、と思ったのが18時頃。プレイヤーがとうとう力尽きたようなのだ。靴のストラップの小気味良い音を立てて、岩から腰を浮かせる。すぐにまっすぐは立てない。少し腰を立つ姿勢にならしてから歩き始める。すっかり暗くなってこれは階段を踏み外しそうだと思ったのでスロープのほうまで歩い た。ごつごつした石が足をとりそうになったが、一歩一歩踏みしめた。歩いているときに、人生を歩いている気がした。レンズに度が入っていないぼやぼやした視界の眼鏡でごつごつした石を歩きづらいと言われるヒールのある靴でよろめきそうになりながら歩く。暗くてスロープの始まりの場所が分かりづらい。少しだけ途方もない気がしてしまった。わたしはスロープまで辿り着けるのかと弱気になる。でもちゃんと辿り着いたんだ。
スロープの坂道にヒールはもってこいだ。大変歩きやすい。上りきってコンクリートの舗装された道まであがって川の方を眺めると、一緒にお月様も見えた。友人が今日が満月だと言っていたことを思い出す。あれが満月か。川面にゆらゆらと月の光が落ちている。自分が伊達眼鏡をかけていることを思い出し、それをはずして度が入っているほうの眼鏡をかけなおした。やっぱりこっちのほうがきれい。
月見をしようと思い立つ。電話を待ちながら月見をしよう。川に沿ったコンクリートの道を月を眺めながらぽつぽつ歩いてみる。横をウォーキングしている夫婦と思われる中年の男女が通り過ぎる。月を眺めるためにその場に中腰になる。またもと来た道を歩く。
八角形の屋根のついたベンチを発見する。でも人がいるので近づけない。その後ろに背もたれのあるベンチを見つける。誰も座ってない。そこに向かう。葉っぱを払って腰掛ける。月の方向を見る。月が上手に見えなくて消沈する。ここじゃだめだ。
どうしたものかと思っていたら、先ほど見つけた屋根付きのベンチから人がいなくなっていた。しめたと思い足早にそこのベンチに腰掛ける。うん、上手に見える。少し木の枝が邪魔だけど、それもいい。
1時間ほどそこで過ごす。ひたすらに月を眺める。満月を眺めながらあれが満月なのかと思い眺める。クレーターも見える。ずっと眺めてても太陽を見てるときのように目が痛くなったりはしない。月はやさしい。
月を眺めていたら、クレーターがなにやら人の顔に思えた。しかもちょっと見てるとぷっと吹き出しそうな滑稽な顔に見えてしまった。いったんそう見えてしまうともう後に引けない。あの満月はそういう顔なのだと認識してしまった。これはいかんと賢明に月を見る。だがしかしもうどうにもならない。
しばらく何も考えずに月を見てみようと努める。吸殻いれがあるので数人煙草を吸うためにこの八角形の屋根の下に入ってきた。吸い終わるとさささと屋根から出て行った。
自分のいる位置からでは見えなくなってしまったので対角辺になるところに場所を移した。よく見えた。
もう本当に帰ろうかなあと考えていたところ、大学生と思われる男性10人程度がソーラン節の練習を始めた。始める前に「全員揃ったの初めてじゃな!」「ほんまじゃ10人おるー!」などなど和気藹々としていたので、何を始めるのだろうと気になって横目に様子を垣間見ていた。その様子はとても和んだ。高校時代の体育祭を彷彿とさせてくれた。
顔の筋肉を緩ませながら眺めていると、わたしの膀胱が尿意を命令した。あ、これは便所を探したほうがいいと名残惜しかったがすぐさまその場をあとにした。その近くに本屋さんがあったのを見つけて確かあそこのトイレはきれいだったと思い出し(わたしは外に出ているときはなるたけ新しくてきれいな便所を所望する)、そこに狙いを定めた。
そこにゆったりとアシッドマンの季節の灯が電子メロディで流れ出したのをすぐさま携帯電話を開いて打ちとめた。電話をお願いしている友人から帰宅したからご飯を食べて電話するというメールだった。おつかれさま待ってますと短く返信した。
時刻は19時半過ぎといったところだったのでもう閉店してるだろうかという危惧が過ぎったが、20時くらいまではあいているんじゃなかろうかという希望的観測を胸に横断歩道を渡っていると携帯電話が今度はパフュームのポリリズムをやはり電子メロディで歌いながら振動した。写真を送ったひとからの返信だった。開くと埼玉スタジアムの写真が添付されていた。うわあすごいと思い返信を打ちながら本屋にゆっくり向かった。地下にあるので建物の階段を下りていくとまだ営業していた。大変安堵して携帯電話を折りたたみ化粧室へ向かった。
用を足してから軽く手洗い場の前の鏡で髪の乱れを確認してトイレをあとにする。まもなく閉店の放送が流れていた。あぶないところだった。本屋を出てから手短に返信を打って送信する。それから駅まではひたすら歩いた。この時間にこの通りを女性が一人で歩いているのはまれだった。大体みんな連れ立っているか、自転車に乗っているかだ。あるいは路面電車やバスなどを利用しているのだろうと考えた。
駅まで歩いて少しばかり空腹感を覚えた。駅に入っているマクドナルドでベーコンポテトパイを買おうと画策した。マクドナルドの見慣れた赤と黄色の看板を目にしたときに、携帯電話がピコーピコーともっともそれらしい音を立てて震えた。友人からの電話だった。
「もしもーし」ゆっくりと発音した。
「はいもしもし」聞きなれた声で返って来る。
それからある程度お互いの苦労をねぎらってから、ちょっと買い物してくると言って電話を中断し、ベーコンポテトパイを買った。クルーが紙袋のままで構わないかと聞いたのに、あ、はい、とうなずいた。
店外に出てからまた電話をかけて話し始める。駅の中を歩きながら今日何をしていたのかをお互いに話して、ベンチを見つけたのでここで一休みしながら買ったものを食べようと腰を下ろす。紙袋に手を入れてあたたかい厚紙に包まれたパイを取り出す。片方の端の口をあけて少し中身をのぞかせてパイをほおばる。寒いところで食べるあたたかいものがだいすきだ。さくさくしたパイは少し懐かしい。でろでろした中身も懐かしい。電話が一旦中断しているときにすべてを食べきってしまう。食べ終わったら紙袋を持ってまた電話を再開した。近くのコンビニでゴミを捨てようとしたらもえるものを入れるゴミ箱が設置されてなかった。しかたなくそのまま家に持ち帰ることにした。電話をしながら帰路についていると、自転車に乗った母と鉢合わせた。わざわざ自転車から降りて、笑い声がきこえたからあんたかと思って、と母はにやにやしながら言い、買い物行って来るから、と言い捨ててまた自転車にまたがってどこかに行った。
家についてからも庭の隅で電話を続けていたが、充電が残り少なかったので一旦切って家に入ることにした。もうすぐ21時も近かったので、ソフトバンク同士の通話だったのだが、スカイプに切り替えることにしようと思い立つ。家に着くまでに一度だけ電話をしながら振り返って満月を見た。それからその日は月を見ることなく布団にもぐってしまった。夜中にもう一度見ようと思っていたのに。夕方直後の夜の月とはまた違った輝き方をしていたのだろう。
-------------------
読みづらいなと思って改行をふんだんに入れたんだけど逆に読みづらくなったってひとがいたらすませ(´▽`;)
昨日は友達宛ての銀行振込みが終わったあと、思い立ち旭川の河原に行くことにした。
路面電車を使おうか、いったん家に帰って自転車を取ってこようかと悩んだが(うっかり歯磨きをするのを忘れて出てきたのが気になっていた)、そのままこのあいだセールで買った歩くたびカツンカツンとヒールが音を立てるのが魅力的な黒のパンプスを履いて歩いていくことに決めた。
幸いにもmp3プレイヤーをポケットにつっこんでいたので耳にかかる髪の毛をよけながらイヤホンを耳の穴にはめ込み、音量は操作せず音楽を聴きながら歩いた。最初にお決まりのピロウズのマイフットが流れた。イヤホンをはめるより先に再生ボタンを押してしまったために気に入りのベースラインを聞き損ねた。
耳に直接かかる部分が赤い透明のプラスチックでできていて、その部分に六角形の模様があしらわれている伊達眼鏡は世界を曖昧に映す。友達に会ったときにこの模様が気持ち悪いでしょと説明したら、友達はこの六角形を見て「でも蜂の巣みたい」と言っていたのを思い出した。そういわれると蜂の巣を連想させた。
昨晩勢いづいてはさみを入れた前髪が気になって何度もそこに手が行く。 わたしの髪は細っこい上に以前のアルバイト先の店長曰く「こしがない」ので(この表現は自分としてもとても合点がいった)とても風のいいようにされる。風に髪を遊ばれるのは好きなのだが、そのあとの片づけまでしたりなど風はしないのでそそくさとわたしの手が簡易な櫛の代わりを果たす。
だんだんヒールのパンプスを履いてる足が音を上げてきた。何を言うのアナタ。まだ路面電車一駅分しか歩いてないわよ、と叱咤激励した。足は生返事をして働いてみせる。
路面電車が通ってるこの桃太郎通りに面している店は思い入れがある店が点々と所在している。それに該当する店の脇を通るたびにそれらしい思い出を頭が引っ張り出す。そしてわたしはその思い出を受け取りちらりと覗き見る。ちらりと覗き見て短いため息をついたあとにまた突っ返す。突っ返したわたしを見ながらもったいぶって思い出をまた頭は仕舞う。仕舞い終わったあともわたしの様子をうかがってる。
目的地に着くまでその行動を5回くらい繰り返した。まったく飽きなかったが、ほんの少しアンタも好きねぇと思った。それらしいショッキングピンクのライトに照らされ淫靡な雰囲気を漂わせながらみだらに振舞う加藤茶ではない。
歩いていると、前から歩く人とぶつかりそうになることがわたしはよくある。それは方向を変えるのを直前まで相手任せにしてためらってしまうからだ。早々に方向を変えられることが間々あるが、恐らく相手にぶつかる気があるのではないかと思わせるほど自分の進路を譲らない。という姿勢を保ちながら、ああ逸れようか逸れたほうがいいよね逸れてくれないかしらああぶつかるーという思案も一応は巡らせているのだが、巡らせているに終始して行動に伴わないようだ。こんな具合で大体ぶつかりそうになるので、 そういう場合は一旦停止をする。気が合うひととは停止したあともふたりそろってまたぶつかる方向に身をねじったりすることもあるのでその場合はプライスレスの含み笑いもついてくる。
旭川沿いに着いた。川と河原の部分は増水した場合に備えてか階段またはスロープを使って降りるようになっている。その部分の傾斜した地形には草が生い茂っているので整備されたのがここ近年だからなのかスロープはそうでもないのだが階段の部分は草に覆われていると言っても過言ではない。スロープ近くには近所の男子小学生と思われる数名がわたしの嫌う自分が世界を回しているという無邪気な笑い声をあげながらお互いを小突き合っている。迷わず遠く離れた階段を使うことを決定する。階段の部分を発見して、少し足が止まった。思ったより傾斜が激しかったのだ。しかもスチールの手すりの部分は持って揺らすとがくがくとゆれるではないか。なんと頼りない・・・。しかし目的地の河原に足を踏み入れるためわたしは意を決して一歩ずつがくがく揺れるが存外に頼りになる手すりを 両手でつかみながら草を分け入って階段を下った。平地と呼ばれる大きな石が敷き詰められている所に足を下ろしてほっと胸をなでおろす。そこまで平面に加工されていない石をヒールで蹴って、腰を下ろせるようにむき出しになってる大きな石か四角い岩かに目をつけて腰を下ろした。眼前には川が流れている。その向こうは後楽園だ。周りが森に囲まれているのであまりそんな気配はない。幾分離れたところで小学生がまだ声をあげて笑っている。出来ればこちらには近づいて欲しくないと思いながら視線をはずす。
階段を下りている途中になんと目的地に着く前にプレイヤーが音を出さなくなってしまった。充電をしていなかったのが原因だ。なんてことだ。他に娯楽と呼べるものを持ってこなかったのに。そう思いながら投げやりに側面の電源のボタンを長押ししたら、出し抜けに復活した。なんだおどかしやがって、と思いながら再生ボタンを押した。また最初からピロウズが流れた。
川のほうから魚が飛び跳ねている音が聞こえる。何回も聞こえる。何の魚だろう。わからない。
音楽をイヤホンから垂れ流しながらじいっと川を見つめてみる。見つめるのをやめて呆けてみる。ああ、そうだ眠かったんだと思い出す。でも折角ここまで来たんだからもう少しゆっくりしよう。
パンプスのストラップをはずして足を靴から解放してやる。
ふう。
少 し気が重くなることがあった。それについて考えたくなくなって外に出ようと思った。柔軟じゃないひとは好きになれないなと思った。あと冷静に言葉を選んで話ができないひとも。自分の言語が通じない相手とは会話をしたくないと思う。もうずいぶん前からお互い気性や考え方が合わないと思っていただろうから今更な問題だ。発端は自分であるしそれに相手が噛み付いたというだけだ。自業自得とも取れるだろう。
外で友人の声が聞きたいと思う。部屋じゃない外で。着いてから携帯電話を見たらメールが1件来ていた。昼に送っていたメールの返信だった。
少しメールを交換して、自分の意向を伝えたら19時以降であれば電話できるという旨だった。今は16時半。2時間半ここで待つか。そうしようか。
また別の人に、今度は写真を添付してここにいるとメールを送信してみる。返信はすぐ来ないだろう。
だいぶ何もせずにそこで腰を下ろしていた。だんだんあたりが暗くなって、遊んでいた小学生はいなくなっていた。外灯も明かりをともしている。なんだか気分がよくなって流れている音楽に合わせて小さな声で歌った。
やあ、そろそろ帰ろうか、と思ったのが18時頃。プレイヤーがとうとう力尽きたようなのだ。靴のストラップの小気味良い音を立てて、岩から腰を浮かせる。すぐにまっすぐは立てない。少し腰を立つ姿勢にならしてから歩き始める。すっかり暗くなってこれは階段を踏み外しそうだと思ったのでスロープのほうまで歩い た。ごつごつした石が足をとりそうになったが、一歩一歩踏みしめた。歩いているときに、人生を歩いている気がした。レンズに度が入っていないぼやぼやした視界の眼鏡でごつごつした石を歩きづらいと言われるヒールのある靴でよろめきそうになりながら歩く。暗くてスロープの始まりの場所が分かりづらい。少しだけ途方もない気がしてしまった。わたしはスロープまで辿り着けるのかと弱気になる。でもちゃんと辿り着いたんだ。
スロープの坂道にヒールはもってこいだ。大変歩きやすい。上りきってコンクリートの舗装された道まであがって川の方を眺めると、一緒にお月様も見えた。友人が今日が満月だと言っていたことを思い出す。あれが満月か。川面にゆらゆらと月の光が落ちている。自分が伊達眼鏡をかけていることを思い出し、それをはずして度が入っているほうの眼鏡をかけなおした。やっぱりこっちのほうがきれい。
月見をしようと思い立つ。電話を待ちながら月見をしよう。川に沿ったコンクリートの道を月を眺めながらぽつぽつ歩いてみる。横をウォーキングしている夫婦と思われる中年の男女が通り過ぎる。月を眺めるためにその場に中腰になる。またもと来た道を歩く。
八角形の屋根のついたベンチを発見する。でも人がいるので近づけない。その後ろに背もたれのあるベンチを見つける。誰も座ってない。そこに向かう。葉っぱを払って腰掛ける。月の方向を見る。月が上手に見えなくて消沈する。ここじゃだめだ。
どうしたものかと思っていたら、先ほど見つけた屋根付きのベンチから人がいなくなっていた。しめたと思い足早にそこのベンチに腰掛ける。うん、上手に見える。少し木の枝が邪魔だけど、それもいい。
1時間ほどそこで過ごす。ひたすらに月を眺める。満月を眺めながらあれが満月なのかと思い眺める。クレーターも見える。ずっと眺めてても太陽を見てるときのように目が痛くなったりはしない。月はやさしい。
月を眺めていたら、クレーターがなにやら人の顔に思えた。しかもちょっと見てるとぷっと吹き出しそうな滑稽な顔に見えてしまった。いったんそう見えてしまうともう後に引けない。あの満月はそういう顔なのだと認識してしまった。これはいかんと賢明に月を見る。だがしかしもうどうにもならない。
しばらく何も考えずに月を見てみようと努める。吸殻いれがあるので数人煙草を吸うためにこの八角形の屋根の下に入ってきた。吸い終わるとさささと屋根から出て行った。
自分のいる位置からでは見えなくなってしまったので対角辺になるところに場所を移した。よく見えた。
もう本当に帰ろうかなあと考えていたところ、大学生と思われる男性10人程度がソーラン節の練習を始めた。始める前に「全員揃ったの初めてじゃな!」「ほんまじゃ10人おるー!」などなど和気藹々としていたので、何を始めるのだろうと気になって横目に様子を垣間見ていた。その様子はとても和んだ。高校時代の体育祭を彷彿とさせてくれた。
顔の筋肉を緩ませながら眺めていると、わたしの膀胱が尿意を命令した。あ、これは便所を探したほうがいいと名残惜しかったがすぐさまその場をあとにした。その近くに本屋さんがあったのを見つけて確かあそこのトイレはきれいだったと思い出し(わたしは外に出ているときはなるたけ新しくてきれいな便所を所望する)、そこに狙いを定めた。
そこにゆったりとアシッドマンの季節の灯が電子メロディで流れ出したのをすぐさま携帯電話を開いて打ちとめた。電話をお願いしている友人から帰宅したからご飯を食べて電話するというメールだった。おつかれさま待ってますと短く返信した。
時刻は19時半過ぎといったところだったのでもう閉店してるだろうかという危惧が過ぎったが、20時くらいまではあいているんじゃなかろうかという希望的観測を胸に横断歩道を渡っていると携帯電話が今度はパフュームのポリリズムをやはり電子メロディで歌いながら振動した。写真を送ったひとからの返信だった。開くと埼玉スタジアムの写真が添付されていた。うわあすごいと思い返信を打ちながら本屋にゆっくり向かった。地下にあるので建物の階段を下りていくとまだ営業していた。大変安堵して携帯電話を折りたたみ化粧室へ向かった。
用を足してから軽く手洗い場の前の鏡で髪の乱れを確認してトイレをあとにする。まもなく閉店の放送が流れていた。あぶないところだった。本屋を出てから手短に返信を打って送信する。それから駅まではひたすら歩いた。この時間にこの通りを女性が一人で歩いているのはまれだった。大体みんな連れ立っているか、自転車に乗っているかだ。あるいは路面電車やバスなどを利用しているのだろうと考えた。
駅まで歩いて少しばかり空腹感を覚えた。駅に入っているマクドナルドでベーコンポテトパイを買おうと画策した。マクドナルドの見慣れた赤と黄色の看板を目にしたときに、携帯電話がピコーピコーともっともそれらしい音を立てて震えた。友人からの電話だった。
「もしもーし」ゆっくりと発音した。
「はいもしもし」聞きなれた声で返って来る。
それからある程度お互いの苦労をねぎらってから、ちょっと買い物してくると言って電話を中断し、ベーコンポテトパイを買った。クルーが紙袋のままで構わないかと聞いたのに、あ、はい、とうなずいた。
店外に出てからまた電話をかけて話し始める。駅の中を歩きながら今日何をしていたのかをお互いに話して、ベンチを見つけたのでここで一休みしながら買ったものを食べようと腰を下ろす。紙袋に手を入れてあたたかい厚紙に包まれたパイを取り出す。片方の端の口をあけて少し中身をのぞかせてパイをほおばる。寒いところで食べるあたたかいものがだいすきだ。さくさくしたパイは少し懐かしい。でろでろした中身も懐かしい。電話が一旦中断しているときにすべてを食べきってしまう。食べ終わったら紙袋を持ってまた電話を再開した。近くのコンビニでゴミを捨てようとしたらもえるものを入れるゴミ箱が設置されてなかった。しかたなくそのまま家に持ち帰ることにした。電話をしながら帰路についていると、自転車に乗った母と鉢合わせた。わざわざ自転車から降りて、笑い声がきこえたからあんたかと思って、と母はにやにやしながら言い、買い物行って来るから、と言い捨ててまた自転車にまたがってどこかに行った。
家についてからも庭の隅で電話を続けていたが、充電が残り少なかったので一旦切って家に入ることにした。もうすぐ21時も近かったので、ソフトバンク同士の通話だったのだが、スカイプに切り替えることにしようと思い立つ。家に着くまでに一度だけ電話をしながら振り返って満月を見た。それからその日は月を見ることなく布団にもぐってしまった。夜中にもう一度見ようと思っていたのに。夕方直後の夜の月とはまた違った輝き方をしていたのだろう。
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読みづらいなと思って改行をふんだんに入れたんだけど逆に読みづらくなったってひとがいたらすませ(´▽`;)
PR
October / 17 Fri
02:15
草さんの文って読むとすげー落ち着くわー
あとすげーなんか書きたくなる
やっぱり草さん、「何も無くても何かある」よ!
自分で言って自分で納得しちゃったよ
物語の一部になれて嬉しかった 凄く
あとすげーなんか書きたくなる
やっぱり草さん、「何も無くても何かある」よ!
自分で言って自分で納得しちゃったよ
物語の一部になれて嬉しかった 凄く
シブシゲさんへ
October / 17 Fri 02:54
うわーん!。゜(゚´Д`゚)゜。
シブさんそんなこと言われるとちょっと気になってた子から告白された中学二年生男子のような心境になっちゃうよ照れちゃうようわーん!!(*ノωノ*)
創作意欲をかきたてることができたんかなぁそれってなんかすごくうれしいね、人に影響するってなんかうれしいや。
何も無くても何かあるってわし?わしのこと?(´▽`)
嬉しかったって言ってくれるのがすごくうれしいよ、すごく。
なんつかいつもより長いから読んでくれただけでもうれしいのに・・・(つД`)
シブさんそんなこと言われるとちょっと気になってた子から告白された中学二年生男子のような心境になっちゃうよ照れちゃうようわーん!!(*ノωノ*)
創作意欲をかきたてることができたんかなぁそれってなんかすごくうれしいね、人に影響するってなんかうれしいや。
何も無くても何かあるってわし?わしのこと?(´▽`)
嬉しかったって言ってくれるのがすごくうれしいよ、すごく。
なんつかいつもより長いから読んでくれただけでもうれしいのに・・・(つД`)
TRACKBACK URL :
・・・は、…という三点リーダを使って、しかもそれを二セットで使うってのが、文章のルールなのだ。まあ、気になったもので。ちなみに―(ダッシュ)も同じ使い方。
現代文学のようね。
三点リーダーは携帯でのメールでしか使わないことにしてるの。
パソコンで書くときは普通に中点使うのら。
2セットで使うってのは知らんかったねぇ勉強になりますた(´▽`)ノ
でもなんかそういう指摘うれしいねww
まりがとww
そしてよくよく読んだら三点リーダーに関して現代文学のようにねと言ってると思ったら違った!(笑)
ぼくの書いたやつに対しての評価だったんすね、恐縮ですわあ(*´▽`*)